遺言しておかないと遺族が困るパターンとは?

遺言の効果や遺産分割について何も知らない人が多い。

 相談者や知人などに「遺言書は作っていますか?」と聞くと、帰ってくる答えで本当に多いのが、「遺言書くほどの財産ありませんから。」とか、「遺産は法定相続でよくないですか?」とか、「ウチは揉めないから遺言書は必要ないですよ。」と言う回答です。
 これは、相続が発生すると、実際にどう相続(分割)手続するのかを知らないか、ある程度知っていても簡単だと思っている人が多いから。
 遺言を残さずに身内が亡くなると、まず故人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本を入手して法定相続人を確定し、財産目録を作り、相続人全員で協議して遺産分割協議書に実印を押し、印鑑証明書、現戸籍謄本を揃えないと故人の財産は分けられません。
 この協議が成立しないことには銀行や証券会社なども手続をしてくれないのです。
 それに、そもそも、キッチリ法定相続分で分割できること自体レアケースであり、たとえ家族仲が良くても、家族の状況によってはこの遺産分割協議ができない場合があるのも、大抵の人が知りません。
 それは、相続人が認知症になっている場合と、相続人に未成年者がいる場合です。
 高齢の方が亡くなり、その配偶者がご存命なら、配偶者も高齢であり、認知症になっていると、法律行為をすることができないので遺産分割協議書に押印することができません。
 また、比較的若い方が亡くなった場合、その子供が未成年者であれば、その子の親、つまり故人の配偶者が子の法定代理人ではありますが、配偶者も相続人であり、別の相続人の代理をすることは利益相反となるため不可能で、裁判所に申し出て別に子の代理人を選任してもらうなどの手間や費用が必要になるだけでなく、未成年の子に代理人がついてしまうと、子に不利益な遺産分割ができなくなるため、よくある、とりあえず子には相続させず、配偶者が全部相続するという分割方法が不可能になったりします。

年々増えている遺言作成件数

 それでも、50代以上の3人に1人は、いつかは自筆証書遺言又は公正証書遺言を作成したいと思っているようです。
 平成30年3月に出された法務省の遺言書に関する調査報告書によると、平成19年の公正証書遺言の作成数は約7万4千件、自筆証書遺言の検認数は約1万3千件でしたが、平成29年の公正証書遺言の作成件数は年間約11万件、自筆証書遺言の検認件数は年間約1万7千件であり、公正証書についてはこの10年間で約5割増と、遺言書の作成件数は年々着実に増えてきています。

明日死ぬとは誰も思っていない

 まあ、仕方がないといえば仕方がないのですが。
 ほとんどの人は自分が近々死ぬなどとは夢にも思っていません。
 不慮の事故や脳・心臓・血管系疾患などで、遺言書など作る間もなく突然亡くなる人も年間何万人といるのですが、自分がそうなるとは思っていません。
 また、歳を取り、いつか遺言書を作らなきゃと漠然と思ってはいても、すぐには作ろうとはせず、そのうち年月が経過していくうちに気力も体力も衰えてゆき、突然ガタッときて入院したりして、結局、遺言書を作らずに(作れずに)亡くなる。 こういう方が圧倒的に多いんだと思います。

 もしそうなっても、その時には自分はもうこの世にいなくて、どうなったかも分かんないんだから、残った人が何とかするでしょ? と、割り切って考える人もいるようですが、それでは残される家族や関係者に対して、非常に無責任な結末だと思います。

遺言書がないと困ったことになるパターン

 では、もしも遺言書も残さず、予期せず自分や身内などが死んでしまったときに、遺された家族が困ってしまうのは、どういう場合でしょうか?

・再婚している。

 現在の妻との間に子がいて、先妻との間にも子がいる場合、先妻だけは相続人になりませんが、子どもはすべて平等な相続人となり、遺言がなければ先妻の子も含めた全員で遺産分割協議をしなければなりません。
遺産を分割するにしても、相続放棄を求めるにしても、簡単ではない面倒な協議となる場合が多いことは容易に想像できるでしょう。

・子供がいない。

 子供がいない場合は2パターンあり、一つは故人が独身の場合、両親ときょうだいが相続人となりますが、両親が高齢で既に認知症にでもなっていたりすると、法定後見人を付けるなど相続手続が相当に困難で不自由なものとなるか、あるいは認知症の親が亡くなるまで相続手続きができないこともあり得ます。
 もう一つは結婚していても子供がいない場合、配偶者と自分の親、もしくはきょうだいが相続人となります。
 遺言がなければ遺産分割協議をしなければなりませんが、自分の親やきょうだいと配偶者との間で協議がうまくいくのかどうか、また法定相続となれば、配偶者の相続分の比率が多いため、将来その配偶者が死んだ場合には、配偶者の親やきょうだいが相続することになり、自分の残した財産の多くが配偶者の血筋に渡ることや、さらにその相続手続が面倒で放置すれば、不動産が両家の血筋で共有になってしまい、解決できず空き家や空き地のままになってしまったりします。

・農業者や事業承継が必要な事業主等である。

 同族経営の小さな会社や農業者のような、特定の事業承継者に事業用資産を引き継がなければその事業が成りゆかなくなるような場合、遺言書がなく、事業の元手である農地や工場などの事業用資産を、事業に関係のない親族にまで法定分割するようなことにでもなれば、その事業が継続できなくなります。
 事業を承継しない相続人にもなにがしかの手当をしてあげたり、せめて事業継続や家族への想いなどを遺言書の付言事項として遺しておけば、相続人間の不満や諍いを未然に防ぐこともできます。

・ネット銀行やネット証券に預金や株などを持っている。

 昨今では、その金利や手数料の低さなどから、従来の市中金融機関ではなくネット銀行/ネット証券を活用する人も増えてきていますが、ネット銀行には紙の通帳はなく、金融機関からの連絡もメールのみで、店舗を持つ市中銀行のように郵便物が来ることはまずないため、故人のパソコンやスマホからしか財産の有無や痕跡がわからず、パソコンやスマホのパスワードがわからずロックの解除ができないとか、会社に連絡して解除してもらおうにも面倒で煩雑な手続きで困難だったり、最悪の場合、銀行預金、株や投資信託などの有価証券といった遺産の存在すら見落とされることにもなりかねません。

・名義預金(子や孫の名前で作った通帳)がある。

 大きくなったら渡してやろうと、誰にも黙って子供や孫の名前で通帳を作り、「生前贈与」したように勝手に思い込んでいたり、自分が死んだら遺言代わりに名義人のものになるだろうなどと大きな勘違いをしている人もいるようですが、贈与というのは「贈与契約」であり、契約には双方の合意が必要です。
 もらう方が認識していないか、認識はあっても通帳も印鑑もその人が管理していない場合には、お金をあげたこと(贈与)にはならず、その所有権は出資者にあると判断されます。
 したがって、この出資者の方が亡くなった場合には、この「名義預金」は名義人のものではなく、出資者の被相続財産に持ち戻しになります。
 相続税が掛からないように贈与で財産総額を減らしたつもりになっていても、死後に贈与とは認められず、これを持ち戻した遺産総額が相続税の課税対象額以上となる場合には「脱税」であり、最近は税務署も名義預金には目を光らせているようです。
 そもそも、自分の死後自動的に(遺言執行者の手を煩わさず)特定の誰かにお金をあげようと考えているならば、名義預金などではなく、一時払いの死亡保険(一時払い養老保険)の保険金受取人をその誰かにしておくのが相続税対策としても正解でしょう。

・相続人の仲が悪い。

 お金持ち・財産持ちの相続人同士が仲が悪いのは最悪です。
 そもそも、相続人同士が仲が悪ければ、多少対策をしたところで、大抵のことは上手くいきません。
 遺言書がない場合、遺産分割協議をしなければ相続手続ができませんが、そもそも相続人同士が仲が悪いと、意見の対立やいがみ合いなどで分割の合意ができず、遺産分割協議書すら作れないことが多い。
 相続税が掛かる遺産総額の場合、10か月の申告期限までに遺産分割協議がされなければ、配偶者の相続税軽減や小規模宅地の特例も使えずに高い相続税を払うことになったり、金融機関の口座も凍結解除されませんし、不動産の登記も全相続人の共有で登記するか、所有者の変更登記すらせずに放置するしかありませんが、そのような不動産は売却して換金することも困難になります。
 最悪、裁判所の調停や審判を仰ぐことになっても、相続人同志の仲が悪いと裁判所の呼び出しにも応じないなど、なかなか進展せず、何年も解決しないうちに、また親族の誰かが亡くなったりすると、さらに複雑になって一層解決困難になってしまいます。

・相続人以外の人や団体に遺産をあげたい。

 長男の妻が、長男の両親の世話をしているような場合で、その親が世話になった長男の妻に財産を残してあげたくても、長男の妻は長男の親の相続人ではないため、遺言によって「遺贈」をしない限り、相続権はないため財産はあげられません。
(2019年7月1日以降の相続では、相続人以外の親族の「寄与分」は、相続人に金銭請求できるようになりました。)
 また、家族以外に友人や大変お世話になった人に遺贈したい場合、あるいは社会福祉法人や慈善団体等に寄附をしたい場合にも遺言書が必須です。

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